それは高校時代から始まりました。高校は中学と同じく中間テストと学期末テストがありますよね。私はなぜか毎回数学のテストになると、腹痛になり便意をもよおすのです。まさに本屋さんに行ったらトイレに行きたくなる現象に近い感じです。
しかも名前を書いて問題に取り掛かると、いきなりくるのです。みんなにこの悩みを話すと、ストレスだといいます。でも私は数学が好きなんです。ストレスというのは嫌なことを体験することで発生するのが普通ではないでしょうか。好きなものをしようとして腹痛に見舞われるなんて、どんな体質なんですか。腹痛に襲われる私はテストの二問めくらいまで耐えるのですが、三問めには腹痛の第一ピークがくるのです。
手を上げて先生にトイレに行きたいと申し出るのですが、カンニングの疑いが懸念されるので、そこでトイレに行くとテストを続行できないのです。
便意ごときに赤点になるのは嫌で、そこから果てしなき便意と数学の壮絶な戦いが始まります。便意や腹痛は腸の運動と連動しているので波があります。波が来たら必死で肛門を締めて、お腹に力を入れないようにして痛みに耐えます。そして波が引いたら凄い勢いで数学の問題を解いていきます。その時は信じられないほど脳がフル回転していて、周りの生徒が答案に書き込む音よりも激しいく速い音を立てて、答えを殴り書くのです。
その時の私の顔は必死の形相だったでしょう。何故なら次の腹痛の波がいつくるかわからないからです。波がくると痛みに耐えるため、問題を解くことができません。いかに波がくるまでに全問解くかが勝負なのです。そして冷や汗をかきながら、最後の問題を解き終わると、即座に手を上げて先生にテストを渡し、全速力でトイレに駆け込むのです。見直しなんてしません。
腹痛と便意がとっくに限界を超えているのです。下手をすると大惨事になる人生の危機が迫っているのです。トイレに入ってからも最後まで気を許せません。そして無事に事なきを得て、腹痛と便意が嘘のように消えた私は教室に戻るのですが、そこから違う苦痛が始まります。
暇なのです。
便意の為に凄まじい速さで問題を解いているので、30分近く時間があまります。
みんなから後で余裕かよ、と言われるのですが、私は全く余裕がない切羽詰まった過酷な状態でテストに挑んでいるのに、わかってもらえません。しかも、便意に襲われる数学のテストは点数が良いのです。普通の状態で数学のテストを受けたことがないまま卒業。きっとあれは私の腸内運動が活発になる朝10時代に数学をさせ、いかに点を取らせないかという陰謀なんだ、と当時思い込んで乗り切っていました。